第4.1節 授業履修者のレポート類に利用するScrapboxの意義
学生(授業を履修する者)によるScrapboxの利用は、ゼミのみならず大教室の授業でも可能だ。授業時間中に学生が書いて提出するリアクションペーパーや課題として授業時間外に記述して提出するレポートなど(以下、「レポート類」という)のIT化である。現在、そのような記述式の提出物は、授業中は手書きで作成することが多いし、レポートはMicrosoft Wordなどのワープロソフトによって作成してPDFで提出するのが一般的である。しかし教員は大量のファイルを扱うことになり煩雑だ。
例えば300人が履修する半期15回の授業で毎週提出する場合、そのファイル数は4,500。そのような授業を複数担当すると、1万ものファイルを扱うことになる。大学にレポート提出機能を備えたポータルサイトなどのシステムがあるとしても、そこからダウンロードした1万のファイルを教員一人で間違いなく取り扱うのは煩瑣である。
もしレポート提出用のポータルサイトシステムがない場合はメイルで提出することになるが、そのような大量のメイルを扱う作業量は膨大だ。学生からメイルを送信したものの教員へは不達となるような事故も生じうるし、添付を忘れることもある。ファイルを大量にやりとりする際にウィルスなどの不適切なファイルを伴う可能性もあって安全とは言い難い。学生の成績評価に直結する情報であるから、その扱いには十分な注意を要し神経を使う。それらのコストを回避すべく、結局多くのレポート提出が紙媒体になってしまう。教員は大量の紙を扱うことになり、その運搬や作業も煩雑だ。
Scrapboxを使うとレポートの「提出」が不要になる。メイルで送る必要もないし、紙にプリントして運搬する必要もない。学生が作成したScrapboxプロジェクトにレポート類を書き、教員がそれを閲覧して評価すればいい〈注30〉。
方法は2通りある。「Private Project」で行う方法と「Public Project」で行う方法だ。Private Projectの場合、学生本人と担当教員のみが当該プロジェクトを閲覧、編集できる。一方、Public Projectの場合、学生と担当教員との間で使っている限り、その使われ方はPrivate Projectと同様である。異なるのは、Public Projectであることから、そのURLを知っていれば誰でもアクセス可能である点である。しかし、URLを非公開にとどめ、そのURLを他の公開されたwebサイトに貼るといったことをしない限り、他者がアクセスすることはない。またGoogleなどの検索エンジンは公開されているwebサイトに貼られたURLをたどって検索用のインデクスを作成する仕組みであるから、公開されているwebサイトにその学生プロジェクトのURLを貼らない限り検索されることもない。したがって他者が類推できないURLにしておけば、閲覧できるのは基本的に当該学生本人及び担当教員のみである。なお、同じ授業を履修している学生同士でURLを類推してアクセスすることは考えられるが、教室で紙に書いて授業内ペーパーを提出する場合であっても、試験ではないので、周囲の学生が書いている内容を参照することは妨げられていないし、むしろゼミのように学生同士で協力することが推奨される授業もある。またレポートも提出までの間に協力することは妨げられない。編集日時がScrapbox上のタイムスタンプによって可視化されている(段落ごとにテロメアで閲覧可能)から、複数の学生が同じ論述を書いていたら最先の学生とそれ以外を特定することは容易である点において、紙のレポートよりも優れている。
具体的な手順は以下のようになる。「Private Project」で行う方法は下記の1〜6、「Public Project」で行う方法は下記の1, 3, 4, 5, 6である。
1. 教員が指定したプロジェクト名で学生がScrapboxプロジェクトを作成する。その際、Private ProjectとPublic Project、いずれかを教員が指定する。プロジェクト名の指定は例えば2018年度の「著作権法」という授業で学籍番号「abc12345」の学生であれば「2018copyrightlaw-abc12345」であり、そのURLは「https://scrapbox.io/2018copyrightlaw-abc12345」となる。教員がScrapbox上に例を作成しておけば学生は学籍番号部分のみを変更するだけで間違いなくプロジェクトを作成できる。
2. Private Projectの場合は、その招待URLを何らかの方法(メイル、チャットなど)で学生から教員に送付する。教員がそのURLにアクセスすると、学生だけでなく教員もそのプロジェクトの閲覧と編集が可能になる。教員は必要に応じてコメントを書き込むことができる。
3. レポート類は学生のプロジェクト内に教員が指定したページタイトルをつけたページを作成して書く。例えば2018年4月1日の課題であればタイトルを「20180401」としたページを作成すればいい。そのURLは「https://scrapbox.io/2018copyrightlaw-abc12345/20180401」となるから教員は学籍番号部分を変更すれば全履修者の課題を開くことができる。
4. 学生がレポート類を起案、作成。
5. 教員は大学から提供される履修者リストをエディタ等で加工して、学生氏名、学籍番号に各学生のURLが並んだリストを半自動的に作成する。それを教員の非公開Scrapboxページに置けば、URLをクリックするだけで当該学生のペーパーやレポートを連続して読むことができる。
6. 教員の非公開プロジェクトに「採点ページ」を作成し、各ペーパーやレポートの評価をテーブル(表)として書く。学期末にはそのテーブルからcsvで書き出す機能を使ってデータを取得し、表計算ソフトで集計すればよい。
Scrapboxを使うメリットとして以下の諸点が挙げられる。
学生は端末の環境を問わず、ブラウザさえあればレポート類を作成できる。MacやPCを持っていない学生でも、iPhone/iPadやAndroid端末といったスマートフォンのみでレポート類の作成が可能である。
授業中や終了直前に短時間で書いてもらう比較的短いペーパーの場合、ワープロソフトを開くより、学生の手元のスマートフォンでブラウザにさっと書けると簡便である。
ワープロアプリ等を必要としない。
段落ごとに編集日時が記録されるから、各段落をいつ書いたのか、いつ編集したのかという情報を教員が閲覧できる。提出締切以降に書いたり編集したとしても明らかである。
文中にwebサイトの情報を引用(著作権法32条)した場合、出所の明示(同48条)として記載するURLがそのままリンクとして機能する。リンク記法によってURLを文中に埋め込むこともできる。
レポートに画像も動画もプログラムも埋め込めるので、紙よりも表現力豊かなレポートを作成できる。
ペーパーに書かれた内容のうち質問などを教員が切り出して次週の授業資料として利用するのが容易。
教員はファイル管理が不要になる。履修学生が多くてもポータルサイトから大量のファイルをダウンロードして(あるいはメイルを受信して)一つ一つのファイルを開くといった作業から解放される。
期末試験も同じ方法で実施可能。
/icons/-.icon